【おすすめ本】第四の核/フレデリック・フォーサイス:超弩級国際政治ミステリー

1972年。デビュー作の「ジャッカルの日」の世界的ヒットによって、一躍ベストセラー作家となったフレデリック・フォーサイス。彼はそこで得た莫大な印税を何に使ったのか?

答えは、アフリカの小国ギニア独裁政権の転覆計画。

ルポライターとしてアフリカ駐在員だったフォーサイスは、アフリカの独裁国の中には、実質上国家の体をなしていない国があることを知る。

そういった国の一つで、内戦状態にあり国民が悲惨な生活を強いられていた独裁国家ギニアの政府転覆を試みる。印税で得た巨額の資金を使って、武器を調達し、傭兵を雇い(たった12人だったらしい)、作戦を遂行。

最終は、武器搬入のライセンスが取得できず傭兵も捕まり、計画は未遂に終わったという。(後に、このときの経験を基に「戦争の犬たち」を出版・・・これも傑作!)

こんなとんでもないことをしでかす作家が書く小説が、面白くないわけがない。

 

本書は、桁外れの発想力と並外れた行動力を兼ね備えたフォーサイスならではの、圧倒的なスケールのエンターテインメント小説です。

 

今回、転覆のターゲットとなるのはアフリカの小国ではなく英国政府。

 

米ソ冷戦まっただ中の80年代。英国は鉄の宰相サッチャー保守党政権時代。

ソ連の書記長が英国の総選挙で労働党を勝利させて、政権を共産党化させる作戦を密かに進める。その計画を察知した英国情報部は、どうやってその計画を阻止するのか?

 

「英国政府転覆」というとても現実的とは思えないアイデアを、綿密な事前調査と豊富な知識に基づく迫真の描写でリアリティを持たせることに成功しています。

 

特に最後のドンデン返しで見せる、国際諜報活動の凄まじさは絶品。

虚実織り交ぜて敵・味方関係なく、虚々実々の駆け引きを繰り広げる政府首脳・諜報部員。 序盤から何重にも伏線を巡らせておき、最後で一見落着と思いきや、さらにもう一ひねり。複雑な国家間の対立や組織における個人の葛藤も絡み合い、あっといわせる結末に導いてくれます。

 

見所も満載。

アフリカの工作員の出生の秘密をわずかな手がかりから暴くところ、KGB長官が転覆計画の秘密を聞き出す箇所、ソ連工作員の追跡劇などは、緻密な描写とあいまってわくわくして頁をめくる手が止まりませんでした。

 

ルポライター上がりのフォーサイスは、事前の調査を緻密に行うことで知られています。

本書でも、小型原子爆弾製造の場面などは実際に作ったことあるんじゃないかと思うほど詳細で、小説のリアリティを増しています。

一方、詳細な描写が時にはあだとなって、時には冗長に感じる場合も・・・ 

 

あまりにも詳細をリアリティに描きすぎたのか、展開に多少無理を感じる箇所もありますが、作品全体の緊張感、敵味方入り乱れての騙し合い、スリルあふれる追跡劇は、そういった欠点を吹き飛ばすだけの面白さ。 

東西諜報活動が華やかりし80年代に書かれた、スケールの大きな超一級スパイ小説です。

 

 

第四の核(上) (角川文庫)

第四の核(上) (角川文庫)