【おすすめ本】点と線/松本清張:昭和の熱き想いを感じる記念碑的作品

僕の大好きな松本清張

昭和の個人がまだまだ尊重されていた、自由で熱い時代の空気を感じられる作品。

 

真冬の海岸で発見された男女一組の情死事件。状況証拠から警察は心中と断定。ところが、被害者が官庁の汚職事件の当事者であることに疑問を持った一人の刑事が、個人的に捜査を開始する。捜査をすすめるにつれ、事件の真相が明らかになるが、本当の悪にまでたどりつくのか?

 

1958年発表の、社会派推理小説の走りとなったエポックメイキングな小説です。

とはいえ、60年前の作品のためか、今読むとどうしてもそこかしこに古臭さを感じてしまう。

 

刑事が独断で捜査を進めるのに、組織の壁がほとんど無くて、上司がすんなりOK。アリバイ崩しに悩む刑事が、飛行機という交通手段になかなか気づかない。最後の謎解きの部分が、犯人との対決もなく手紙であっさりと明かされてしまい、カタルシスが全くないこと。

違和感を覚える箇所がいくつもあり、イライラを通り越して滑稽さすら感じます。

 

しかし、本書の真の価値は謎解きとしての完成度ではなく、組織が個人を抑圧する日本社会の病巣を、推理小説という形(俗に言う”社会派推理小説”)を通して世に問うたことだと思う。

 

汚職事件で組織の犠牲となって死に至る下級官僚。今までも、幾度となく繰り返されてきた悲劇は、森友文書改ざん事件での近畿財務局職員の自殺と、瓜二つの構図となっている。組織による個人への圧力は、「点と線」発表時の60年前と何ら変わっていないのだと痛感させられる。企業・スポーツ界のパワハラ・セクハラ問題等、組織に蹂躙される個人が次々と出てくる今の日本の現状を見ると、むしろ個人への圧力は強まっているようにも思える。

 

日本社会における普遍的な負の側面を、60年前にミステリーという形で世に問うた本書は、そういう意味ではやはり日本の推理小説の歴史的作品なのだろう。

短いながら、ずしりとくる読後感は読み応え充分です。

 

点と線 (新潮文庫)

点と線 (新潮文庫)