サッカーW杯:決勝Tの得点シーン分析:日本の課題はロングキックの精度

準々決勝も終わり、ベスト4が出そろったロシアワールドカップ。

 

決勝トーナメントの1回戦・準々決勝の計12試合で決まったのは全部で35ゴール。

その得点に至るまでの経緯を独断と偏見で分析してみました。

その結果、国同士の戦いの場合の傾向が少し見えてきたので書いてみます。

 

1.得点シーンの分類

(1)なぜ、対象が決勝トーナメントだけなのか?

予選リーグの試合を含めなかったのは、様々な要素が入り込んで、分析が難しくなるからです。

たとえば、予選リーグの3戦目は、日本対ポーランドのような半分消化試合のようなゲームがあったり、と駆け引きのような要素が多く入り込んでいるため、どこまでが純粋な試合として見れば良いか分からないため。

 

決勝トーナメントは3試合(準決勝、決勝)残っていますが、すでに8割(12試合)を消化しているので、大まかな傾向は分かると思います。

 

(2)得点シーンの分類

映像で見て、35ゴールの得点に至った過程を下記6つに分類しました。

(あくまで、筆者独自の分類です) 

 ①セットプレー(含むPK)    :15点

 ②ロングパス           :3点

 ③ミドル・ロングシュート     :6点

  (ペナルティエリア外からのシュート)

 ④速攻              :5点

 (ペナルティエリア内からのシュート)          

 ⑤つないで崩す          :5点

ペナルティエリア内からのシュート)

 ⑥その他             :1点

 

巷で言われている通り、セットプレーからの点数が15点(43%)と最多。

次に多いのが、ミドル・ロングシュートの得点で6点(17%)。

速攻(日本がベルギーから取られた3点目のようなもの)とつないで崩すのが各々5点(14%)。

ロングパス(日本対ベルギー戦の1点目の柴崎から原口へのパス)が起点となった得点が3点(8%)。

 

2.これから何が分かるか?

実は①~③の共通点は、「いずれも中長距離のキックが使われている」ということです。

セットプレーはフリーキックの精度、②はロングパス③はミドル・ロングシュートと、中長距離のキックが得点に結びついているのです。

①~③の点数を合計した23点、総得点の66%がロングキックによるものなのです。

 

これが、今の国同士の試合の世界的トレンドの一端を表しているように思えます。

 

振り返ってみると、10年の南ア大会では短いパスをつないだスペインが頂点に立ち、次の14年ブラジル大会ではその短いパス交換が封じられた。

そこで、長短のパスを織り交ぜるサッカーでドイツが頂点に立った。

そして、今回の18年。決勝Tの12試合では、ロングキックの有効性が高まっています。

 

得点に繋がる要因が、短いパス交換から長いパスやロングシュートへと、その距離が段々長くなってきているように見えます。

 

3.なぜ、ロングキックが効果的になってきたのか?

(1)4年間の守備戦術の進化が最大の理由。

当然ながら前回大会の反省を踏まえて、各国は守備体系の改善を図ります。

今回に関して言うと、攻撃から守備の切り替えが,、より一層早くなりました。

パス交換をしている間に、守備側はペナルティエリア内に選手が6~7人がいる状態を素早く作り出しています。これまでのように、センターサークル付近でプレッシャーをかけるより、自陣に戻ることを優先しているようです。

このため、パス交換に時間をかけるとゴール前には守備側の人数が揃ってしまい、決定的なシュートを打つことが難しくなってきています。

 

攻撃から守備への切り替えが、益々早くなっているため、速攻・ロングパスで守備の人数が揃う前にペナルティエリアに進出するか、セットプレーでの得点が多くなっている要因だと考えます。

 

(2)クラブ同士の戦いと、国同士の戦いの違い

2つめは、代表チームではクラブチームのように、攻撃面の連携を熟成する時間が足りないことが挙げられます。

 

クラブ単位でみれば、今でもバルセロナのように短いパスでつなぐチームがCL等で上位に進出しています。ところが、ワールドカップではスペイン、ブラジル、アルゼンチンといった、繋いで相手を崩すチームが、揃って敗れてしまいました。

これは、代表チームでは、準備期間がせいぜい1か月しかなく、クラブチームのように攻撃の連携を構築する時間が足りないためだと考えられます。

わずか一ヶ月では、守備のセオリーとセットプレーの確認は出来ても、流れの中での攻撃を熟成させる時間がないのが現状ではないでしょうか。 

 

そうなると、コンビネーションで崩していくより、ロングキック・セットプレーの1発で決める事になるのも、致し方ないと思います。

 

4.これからの課題

(1)つないで崩すのは不要になったか?

実は、「繋いで崩す」5点の国の内訳は、ブラジル・アルゼンチンです。

まるで、欧州のチームはつないで崩すのは最初からあきらめているのかのよう?

まあ、ブラジル、アルゼンチンぐらいの個人技がないと、崩して点を取るというのは、難しいと言うことでしょう。

 

かといって、繋ぐのは無駄かというと、当然ながらそうではない。

パスをつないで仕掛けたからこそ、フリーキック等のセットプレーを獲得できる。やはり、「つなぐ」ことも選択肢として持っておく必要はあります。

 

(2)これからはロングキックの精度が勝敗を分ける 

決勝トーナメントを見ると、プレッシャーが厳しいトップ下の選手がラストパスを出すのは難しく、ボランチサイドハーフ、下手するとセンターバックといった、複数の選手からロングパスが出る場面が多く見られました。

 

一方、日本ではロングパスを出せるのは実質上柴崎選手、一人でした。

 

因みに、日本の今大会の全得点6点を独自分類すると、以下のようになります。

   セットプレー:2点(香川PK、大迫ヘディング(共にコロンビア戦)) 

   ロングパス   :2点(乾(セネガル戦)、原口(ベルギー戦))

  ロングシュート:1点(乾(ベルギー戦))

   繋いで   :1点(本田(セネガル戦)*若干速攻気味ですが、一応繋ぎにした

 

香川のPKのきっかけやロングパス2点の計3点が柴崎選手からのパス。彼以外から、有効なロングパスが出ていないことは今後の課題でしょう。

 

汗をかくボランチサイドハーフや跳ね返せるセンターバックは出てきた日本。

これからは、そういった後ろのポジションからも、精度の高いロングパスを出せる選手が出てくることが望まれます。