【おすすめ本】ゼロの焦点/松本清張 戦後日本の混乱期を描いた傑作。胸に沁みます。

推理小説の体裁を取りながら、戦後の日本の矛盾を告発した物語でもあります。

 

戦争の傷がまだ癒えきっていない昭和30年代前半。混乱期を生き抜くために、秘密を抱えざるを得なかった人間の悲しさが胸に刺さります。

 

よく、「点と線」に連なる作品として語られることが多い本作品。しかし、僕としては人生の悲しさのようなものが全編から伝わってくる作風は、「砂の器」との共通点が多いように思います。

個人の力では抗うことの出来ない時代の流れに翻弄されながら、生きていかなければならない。強さなのか、弱さなのか分かりませんが、そうやって生き抜く人への優しさがこの作者にはあるように思えます。

 

松本清張の作品の面白さの一つに、不可解な事実がいくつも積み重なり、主人公の不審や不安が徐々に膨らんでいく過程があります。この作品でも、謎が深まっていく様子が絶妙の描写で描かれて、どきどきしながら頁をめくることになります。

 

そして、その謎が次々にあきらかになる後半部分。

読み進むにつれて、物語に段々引き込まれていきます。

この構成のうまさは流石です。

 

推理小説としての面白さはもちろん一級品ですが、戦後の傷跡が残る昭和30年代の日本を知る小説としても優れた作品です。

 

ゼロの焦点 (新潮文庫)

ゼロの焦点 (新潮文庫)