先日、高校生の部活動加盟状況についてブログを書きました。
高体連が管轄する競技の中で、競技人口が多い上位8競技の状況を書いています。(野球は高体連管轄外なので対象外)
よくよく考えてみると、人気競技よりマイナー競技の方が、競技人口確保に苦労しているはず。
そこで今回は、マイナー競技の加盟人口の状況を書いてみました。
1.全体の概況:「人気8競技」と「その他」の比率
男女別に「人気8競技」とその他の競技の加盟人数比を見てみます。
対象年度は2017年。今回は高校野球の人員も加味しました。
高体連および高野連の管轄する競技数は全部で、37競技あります。
グラフを見ると、男女とも上位8競技で加盟人数の74%を占めていて、26%を残りの29競技で分け合う状況であることが分かります。
2003年→2017年の間での「高体連+高野連の登録者人数合計」は、以下の通り。
2003年:1,259千人→2008年:1,197千人→2013年:1,210千人→2017年1,247千人
これを見ると、2017年は2003年対比で99%とほぼ横ばいです。部活をしている生徒はほとんど減っていません。
これは、スポーツ界全体としては良いニュースですが、問題は前回のブログでも書いたように、「人気8競技の加盟人数占有率が上昇している」こと。
人口減が続くことを考えると、マイナー競技の選手の確保が心配されるところです。
2.「マイナー競技」の加盟人数推移
ここまで、あからさまに「マイナー競技」と言ってきましたが、これは各競技の関係者の方には失礼ですね。しかし、他に良い呼び方もないので、このブログでは「人気8競技」以外の種目を便宜上「マイナー競技」と呼ぶことにします。
「2003年→2008年→2013年→2017年」の5年ごとの人数の増減を調べました。
29競技全てのデータを取るのは大変だったので、ランダムに男子16競技、女子12競技を選んでいます。
増減の状況をグラフにすると以下の通り。
意外ですが、増加している種目もあります。
表にすると以下のようになります。
(表1)競技別加盟人数の推移(高校男子) | |||||
2003年 (A) |
2008年 | 2013年 | 2017年 (B) |
B/A (%) |
|
体操 | 3,997 | 2,722 | 2,455 | 2,285 | 57 |
新体操 | 501 | 446 | 558 | 485 | 97 |
ソフトボール | 6,739 | 6,362 | 6,321 | 5,028 | 75 |
相撲 | 1,351 | 1,148 | 985 | 935 | 69 |
柔道 | 28,690 | 23,867 | 18,718 | 15,861 | 55 |
ボクシング | 3,859 | 2,409 | 2,710 | 2,148 | 56 |
レスリング | 2,789 | 2,433 | 2,343 | 2,290 | 82 |
ホッケー | 2,169 | 2,182 | 2,037 | 2,103 | 97 |
アーチェリー | 2,735 | 3,176 | 3,201 | 2,118 | 77 |
フェンシング | 1,214 | 1,156 | 1,564 | 1,518 | 125 |
ボート | 2,700 | 2,898 | 3,083 | 3,074 | 114 |
カヌー | 927 | 907 | 1,143 | 1,203 | 130 |
ヨット | 835 | 874 | 930 | 1,009 | 121 |
水泳 | 16,156 | 17,462 | 20,816 | 22,139 | 137 |
自転車 | 1,653 | 1,619 | 1,464 | 2,017 | 122 |
スケート | 1,200 | 1,101 | 974 | 905 | 75 |
計 | 77,515 | 70,762 | 69,302 | 65,118 | 84 |
(表2)競技別加盟人数の推移(高校女子 ) | |||||
2003年 (A) |
2008年 | 2013年 | 2017年 (B) |
B/A (%) |
|
体操 | 4,228 | 3,123 | 3,045 | 2,909 | 69 |
新体操 | 3,019 | 2,518 | 2,343 | 2,105 | 70 |
ソフトボール | 24,663 | 25,620 | 22,718 | 21,395 | 87 |
柔道 | 6,938 | 5,323 | 4,503 | 4,070 | 59 |
ホッケー | 1,587 | 1,683 | 1,483 | 1,381 | 87 |
フェンシング | 1,088 | 817 | 880 | 983 | 90 |
アーチェリー | 1,881 | 1,853 | 1,581 | 1,678 | 89 |
カヌー | 338 | 422 | 465 | 462 | 137 |
ボート | 1,512 | 1,755 | 1,591 | 1,758 | 116 |
水泳 | 13,134 | 11,586 | 12,137 | 13,119 | 100 |
ヨット | 420 | 342 | 341 | 447 | 106 |
スケート | 231 | 346 | 309 | 366 | 158 |
59,039 | 55,388 | 51,396 | 50,673 | 86 |
内訳を見てみると、以下の事がわかります。
(1)体操と格闘技系競技が、大幅に減少(70%)。
・体操は、男子(57%)女子(69%)ともに大幅に減少。
五輪の日本のお家芸体操も、今後はメダル数が減るのか?
・格闘技競技は、男子の相撲(69%)、柔道(55%)、ボクシング(56%)、女子の柔道(59%)、といずれも大幅減少。男子のレスリング(72%)も減少。
また、表にはありませんが、男子剣道(72%)、女子剣道(71%)、ラグビー(74%)も減少。
今どきの高校生は、痛いのがキライ?
いずれも、理不尽なしごきや非科学的な練習が蔓延している、イメージがある竸技ですが、実態はどうなんだろうか。
(2)水上スポーツは競技人口増加
男子のカヌー(130%)、ヨット(121%)、水泳(137%)、女子はカヌー(137%)。その他にも、男子のボート(114%)、女子のボート(116%)も少ないながら増加。
特に、水泳は競技人口が1万人を超えているにもかかわらず、着実に増加している。
(3)五輪効果で増加したと思われる:フェンシング
・フェンシングは男女ともに2008年→2013年に増加。
1年ごとに見ると、男子が2009年から、女子が2010年から、競技人口が増加に転じています。
太田選手が北京五輪で、日本フェンシング史上初めてメダルを獲得したのが2008年なので、その効果が現れたのでは?
3.まとめ
(1)減り続ける高校生人口:18年後は8割に減少
平成29年の人口動態調査から、18年後の高校生の人口はほぼ分かります。
年齢別の人口を見ると以下の通り。
18才123万人→10才106万人→5才105万人→0才100万人
平成29年の0才は18才の約8割。18年後の高校生人口はざっくり8割になります。
(2)マイナー競技人口の確保策:地域スポーツクラブとマルチスポーツ制
当然ながら、各競技団体はそれぞれ競技人口確保のための活動は行っています。
・フェンシング協会
http://fencing-jpn.jp/cms/wp-content/uploads/2016/04/16582a8cbb0e6c22767e10a34c39fca2.pdf
・水泳連盟
https://www.swim.or.jp/files/midterm-plan.pdf
・ボート
http://masalabo.com/boat/130209_2.pdf
しかし、人口減が進むことを考えると、各競技団体による個別の活動では、少ないパイを奪い合うゼロサムゲームになります。
人口が減る中で、どのようにマイナー競技の人口を確保すれば良いか?
①地域のスポーツクラブの活用
今後も高校生の数が減少することを考えると、マイナー競技の場合、学校だけでは設備・指導者を維持していくのは難しい面があります。
例えば、自然を相手にするヨット・カヌ-・ボート、リンクが必要なスケート、等。
一つの学校の、こういった設備を全てそろえるのは不可能です。
複数の競技を行うスポーツクラブを作り、そこに集約する。
一つの学校では活動の維持が難しい競技は、地域のスポーツクラブへ移行すること。
複数の学校の生徒がクラブへ通うようにすれば、人員確保と設備・指導者の維持という負担も軽減されます。
水泳の競技人口が増えているのは、多くの小学生がスイミングスクールという「地域スポーツクラブ」に入ることが要因のひとつと考えられます。
小さい頃からスポーツクラブで競技に触れることで、競技に対する興味が湧いてくるという、メリットがあります。
②マルチスポーツ制の普及
一人一種目しか出来ない日本の仕組みでは、競技者の獲得競争はどうしてもゼロサムゲームになります。
米国のように一人の生徒が複数のスポーツを行う仕組みを考える時期に来ている。
高校生(個人的には大学生も)までは、複数の競技をすることで競技人口を確保することが出来ます。
例えば、夏はカヌー、秋はレスリング、冬はスケート、というように複数の競技を掛け持ちする。
そのためには、競技別のオフシーズンの設定やそれに伴う大会の調整等、難しい問題もありますが、少しずつ進めるべきだと考えます。
4.最後
地域スポーツクラブはまだしも、「マルチスポーツ制」というのは、今の日本ですぐに実現するのは難しいでしょう。制度・仕組みだけでなく、大会スケジュール、指導者、等問題がありすぎると思います。
また、一つの事を極めるのがよし、とされる考え方にもある程度の転換が必要です。
今の日本のトップクラスの多くは、小学生の時に始めた競技をそのまま続けています。
これらは、名前こそ「**体操教室」とか「**卓球スクール」となっていますが、その実態は地域のスポーツクラブです。
ただ、残念なのは多くのクラブが単一の競技しかやっていないことです。
これは、もとはと言えば好きな人達が立ち上げたクラブなので、単一種目クラブという形式なのも当然です。
しかし少子化の流れの中、多くのクラブが部員集めに苦労しています。人気の野球でさえ、部員減少で廃部となるところが出てきているようです。
そういったいくつかのクラブが集まって、総合スポーツクラブを作れば良いんじゃないでしょうか。
昔から、スイミングとサッカーと空手の3つやっています、という小学生は普通にいます。個々の競技で別々に運営するのではなく、一緒になればクラブの維持という面からも、メリットがあるでしょう。
特に言いたいのは、複数の競技を行うことは人生を豊かにすることです。
実際に経験することで、競技の面白さを奥深くまで知ることが出来ます。
また、成長途上にある中高校生が一つの種目しかやらないのは、体の発育上マイナスであることが、指摘されています。
私も、中・高・大と部活に入っていたので、部活動の良さは十分理解しています。
部活動の経験というのは、これまでの人生の中でも貴重な思い出の一つです。
部活動の良さも活かしながら、多くの競技をどのように活性化していくのか。
これからも考えていきたいと思っています。
*最後にスポーツ庁のレポート
スポーツ庁 Web広報マガジン|「部活=学校」である必要はない!?地域が主体となって子供たちのニーズに応える 「総合型地域スポーツクラブ」視察レポート