【おすすめ本】3,1,2とノックせよ/フレドリック・ブラウン 軽妙な語り口とスピーディーなストーリー展開。無駄がなく面白さ満載。

この本の著者フレドリック・ブラウン、僕の大好きな作家です。

奇抜な着想で、いつも唸らされます。

 

全編に流れる軽妙な語り口とユーモアとペーソス。「猟奇殺人」というサイコ的になりがちなテーマを扱いながら、明るいミステリーになってます。

 

全体で230ページとコンパクトな分量ながら、無駄がない展開。ページ数以上に中身は詰まってます。最近のミステリーは多くの要素を詰め込むためか、やたらとページ数が多い傾向にありますが、1959年作のこの作品はシンプルで読みやすいです。。

 

スピーディーな展開に引き込まれるうちに、いつのまにか読み終わってしまう。

ストーリー展開の名手、ブラウンの力量を改めて感じます。面白いです。

 

物語の舞台は、連続婦女暴行殺人事件が発生して、猟奇殺人犯の恐怖におびえる街。

 

賭け事の借金がたまったことから、窮地に陥る主人公。やくざの胴元から脅され、八方ふさがりの状況に追い込まれてしまう。保険金を目当てに、猟奇殺人犯に妻を殺させるという驚くべき作戦を思いつくが、、、、。

 

物語が進むにつれて広がっていく謎が、最後は意外なところから解決していきます。

  

この小説の面白いところは、なんと言っても出て来る人間がみんなセコいこと。

 

まず、主人公が救いようがないダメ男。

自分のことは棚に上げて、窮地に陥ったのを全部妻のせいにする。そのうえ、ポーカーの負けが溜まっているのに、どうしてもやりたい。元手を稼ぐため、周りの人間から少しずつ小金をせしめようとする。そのやり口がまた、セコくて笑えます。

 

そのほかの登場人物もセコい人間ばかり。

何人も男がいる愛人やその情夫。それに加えて、やくざの胴元やバーテンダー。みんながみんな、わがままで自分勝手な人間ばかりです。

 

でも、小心者でどこか人がいい。憎めないんだなあ。

自分を見ているようで、つい応援したくなる人物ばかりです。猟奇犯でさえ、どことなく人の良さを感じます。

 

随所から、都会の片隅で生きる人々への筆者の優しいまなざしが感じられ、後味は爽やか。

 

SFやミステリーに、短編も長編も、質の高い作品を多数出しているフレドリック・ブラウン。今では、ほとんどの作品が絶版になっているのは寂しい限りです。

 

この作品も翻訳が1960年で約60年前。絶版になっていたので、アマゾンで購入しましたが、言葉遣いに古臭さを感じるのは否めません。

今後は、新訳で彼の作品が再び読めることを期待しています。

 

肩のこらない楽しいミステリーをお探しの方には、ぴったりの一冊です。