【おすすめ本】殺人犯はそこにいる/清水潔:ノンフィクションの名著!執拗に真実に迫ろうとする記者魂に感動します。

いやあ~すごい本を読みました。
末永く読みつがれて欲しい作品です。
ノンフィクションの名著です。

記者クラブにも属さない一記者が、警察、検察・地裁の壁に何度も跳ね返されながら、丹念にかつ執拗に真実に迫っていく。

「調査報道のバイブル」と言われる傑作作品です。

筆者:清水潔氏の紹介

清水潔さんというのはジャーナリスト。雑誌「FOCUS」を経て、日本テレビ報道局記者、今は解説委員をされている方です。
数多くのノンフィクションの力作を書いており、その取材活動にたして様々な賞を受賞しています。

その中の一つ。「桶川ストーカー殺人事件 遺言」も素晴らしい作品です。ぜひ、手にとって見てください。

  

「北関東幼女連続誘拐事件」とは

この本で取り上げられているのは「北関東幼女連続誘拐事件」。17年の間に半径10キロ圏内で、5件の幼女誘拐事件が起きたものです。

 ・79年 栃木県足利市 福島万弥ちゃん  5才 殺害
 ・84年 栃木県足利市 長谷部有美ちゃん 5才 殺害 
 ・87年 群馬県尾島町 大沢朋子ちゃん  8才 殺害
 ・90年 栃木県足利市 松田真実ちゃん  4才 殺害 
 ・96年 群馬県太田市 横山ゆかりちゃん 4才 行方不明

栃木県・群馬県にまたがって起きた事件のため、最初警察では連続事件とはみなしていなかったようです。
この内の事件の一つ、90年の松田真実ちゃん殺害事件を「足利事件」として捜査。容疑者を逮捕します(のちに冤罪と判明)。

足利事件」が「幼女連続誘拐事件」へと変わっていく。

足利事件」の容疑者が逮捕された後も、誘拐事件が起きていることから、著者は冤罪の懸念を持ちます。

この後の著者の取材活動が凄い!

被害者家族や査関係者を丹念に訪ね歩き、現場を検証することで、容疑者自供の危うさや警察の「DNA型鑑定」のずさんさが次々と明らかになっていきます。
その熱意と情熱には頭が下がります。

被害者家族など多くの関係者の努力が実り、ついに時の総理菅直人首相の国会答弁にまでこぎつける。

そして、ついに総理大臣までが答弁した。菅直人氏だ。
足利事件は四歳の女の子が殺害、遺棄されたという大変痛ましい事件です。また、犯人でない菅家さんが、長期間にわたって刑に服すという冤罪事件でもあります。近隣で同じような事件が五件もあるという指摘もありますので、同種類の事件を防ぐという意味からも、しっかり対応することが警察等においても必要ではないかと、感じたところであります。」
おお。総理がここまで言ったぞ。
国家公安委員長があそこまで言ったぞ。
検察、警察庁、さあ、どうする?

この箇所はこの本の一つの山場でもあり、一記者の徹底した取材が国家をも動かせることを証明した歴史的な瞬間です。
これによって、それまで頑強に「連続誘拐事件」だと認めてこなかった警察が、ついに動くことになります。

犯人らしき人物「ルパン」の浮上。動き出したかに見えた警察。

さらにこの著者は、犯人らしき人物にも接触します。
取材の過程で、通称「ルパン」と呼ぶ人物を突き止めます。

カメラマンを雇って行動を監視し、本人に取材をし、情報を捜査当局にも提供する。
そして、ついに「DNA型鑑定」が一致する。

警察幹部も納得し、事件が動き出す気配を見せていきます。

しかし、これで事件解決とはいかない

実は、この先がこの事件の本当に怖い部分。
動き出したかに見えた警察ですが、いつの間にかその動きがストップしてしまう。

それはなぜか?
理由は「DNA型鑑定」。

「DNA型鑑定」によって刑が確定し、死刑が執行された例が過去にあった(「飯塚事件」)。

足利事件」・「飯塚事件」ともに、唯一の物的証拠が「DNA型鑑定」。
もし、「連続誘拐事件」ということになれば、「足利事件」の「DNA型鑑定」の信頼性がゆらぎ、ひいては「飯塚事件」の死刑執行に懸念が生じてしまう。
 

今思えば、この事件が葬り去られる当然の理由があったのだ。「18-24」型である「ルパン」を逮捕してしまえば、科警研の誤審が確定する。それは、死刑が執行された「飯塚事件」にも重大な影響を与えることになるだろう。そんな「爆弾」を抱え込んでまで「ルパン」を逮捕しようとする人間が、霞が関にはいなかったのだ。
かくして、「北関東連続幼女誘拐事件」は「爆弾」とともに闇に葬られようとしている。

巨大な警察組織の見えない手によって、いつの間にかうやむやになっていくのでした。

未だに5件の誘拐事件は解決されていません。
  

まとめ

真実を掘り起こすというジャーナリストの真髄を見たような素晴らしい本です。

一つの物語としても読んでも、息をつかせぬ面白さです。
警察・検察組織との戦い、大手マスコミの事なかれ主義、被害者家族の苦悩。
これがフィクションでなく、今でも現実に起こっていることだと目の当たりにすると、愕然とします。

より多くの人に手にとって欲しい本。