「金融庁年金報告書」は事実を冷静に捉えた、良くできた報告書です

セミリアタイヤして、100才までの資産運用に頭を悩ます信三郎です。

金融庁ワーキンググループが作成した報告書「高齢社会における資産形成・管理」(通称:年金報告書)が話題になっています。

「95歳まで生きると、年金だけでは2,000万円不足」のインパクトが強かったようですね。

僕も読んでみました。

読んだ感想は、、、「よくできた報告書」です。

年金にまつわる背景や、高齢者世帯の実態を、冷静に捉えた内容になっています。
今後の年金制度の進め方について、良いたたき台になるんじゃないでしょうかね。

報告書をまだ読んでいない人のために、概要についてまとめてみました。

*報告書は下記金融庁のHPを参照ください。

https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20190603/01.pdf

1.金融庁年金報告書の概要:現状整理

この報告書の肝は、「現状整理」をきちんとやったことだと思います。
だれもが薄々気づいていたことを、公の記録としてオーソライズしたことは評価されるべきです。

高齢者を取り巻く現状を、以下のようにまとめています。

①高齢化の実態;高齢化に伴い認知症が増加 
  ・長寿命化:男性の平均寿命:1950年ごろ:60歳→現在:81歳
  ・認知症の増加:現在 約462万人→2025年 約700万人
  ・単身世帯の増加

②元気な日本の高齢者
 ・高い就労率(他国比)
    65-69才の就労率 日本(男性)54.7%→外国は40%以下
 ・過去に比べて高くなった「運動能力」
 ・他国より高い「思考レベル」

③悪化する高齢者世帯の家計
 ・退職給付の減少:1997年 32百万 →2017年 20百万円
 ・年金受給額横ばい((*)マクロスライド制を発動せず)
 ・高齢者世帯の収支:収入 21万円 → 支出:26万円

(*)マクロスライド制
 そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。平成16年の制度改正では、将来の現役世代の保険料負担が重くなりすぎないように、保険料水準がどこまで上昇するのか、また、そこに到達するまでの毎年度の保険料水準を法律で決めました。

厚生労働省HPより

(年金財政が苦しいので、「受給額を下げていきましょう」という制度です。しかし、高齢者の反発を恐れた政府は、年金財政悪化にもかかわらずほとんど実施していない。)
              
④伸び悩む金融資産
 ・保有する金融資産:夫婦世帯:2,252万円、単身男性:1,552万円、単身女性:1,506万円
 ・増えない高齢者世帯の金融資産  
    (注)米国は20年で3倍増→米国との違いは投資への取組み

要約すると、「元気な高齢者が増えているが、その家計は悪くなっている」です。

意外なのは、就労している人が54%と半分を超えていること。
元気な高齢者が増えているのは喜ばしいことですが、働いているにもかかわらず、家計が悪化しているのは問題です。

既知の事実も多く含まれていますが、こうやってレポートという形で出てくると、改めて実感が湧いてきます。  

2.金融庁年金報告書の概要:問題点

この報告書で指摘している問題点は以下の通り。

(1)少子高齢化で年金受給額は減少

これも、すでに多くの人が気づいていることですが、これから年金受給額は減る一方です。
少子高齢化が進むので、当然といえば当然。
ここは、受け入れるしかないですね。

(2)資産形成の取組みが遅れている

年金受給額が減るとわかっているのに、多くの人が資産運用を「預貯金」で行っており、「投資」を行っていない。

報告書では、現状を下記のように表現しています。

「老後に向け準備したい(した)公的年金以外の資産」として「証券投資(株式や債券、投資信託など)」を挙げた者は2割以下に
留まり、実際に投資を行っている者の割合はこれよりもさらに低い水準となっていることが予想され、意識と行動に乖離があることが窺える。

   
投資を行っている人が2割もいない、、、
預貯金では、資産を増やすのはむずかしいだろうなあ。

米国では、ここ20年で高齢者の資産が3倍に増えたそうです。
その要因は、現役世代が401kなどの自らが運用する投資商品で資産形成を継続していたから。

報告書では、投資に対する日米の姿勢の違いが、金融資産に3倍の差を生み出している、と指摘してます。

日本には、資産形成を支援するために国が用意した制度として、「つみたてNISA」と「iDeCoがあります。

税制面での優遇措置があるので、資産形成には便利な制度ですが、利用率はたったの1%前後!

もったいない。
お金を預けるだけで税額控除等が受けられるので、やっておいたほうがいいです。

僕は「iDeCo」に毎月積み立てをしています。

少子高齢化が進展する中、自ら資産形成へ取り組むことが、大きな課題としています。

3.対策

それでは、これからどうすればいいのか?

自助努力」です。

報告書が対策としてあげているのは、下記2点です。 

①マネープランを作成して、自己責任で長期の資産運用
②金融リテラシーの向上

①マネープランを作成して、自己責任で長期の資産運用

投資は長期運用が基本。
資産運用を始めるなら、できるだけ早いうちが良い。

投資を始める前には一生涯のマネープランを作成し、それに沿った資産運用することを勧めています。

このとき、資産運用は政府に頼るのではなく、自己責任で自らが行う。

自分の人生設計に沿った資産運用を自ら行うこと」が、これから大切になります。

②金融リテラシーの向上

日本人が投資を行わない理由を下記としています。

投資を行わない理由として上位を占めているのが、「まとまった資金がない」、「投資に関する知識がない」、「どのよ
うに有価証券を購入したらよいのかわからない」という回答

「まとまった資金がない」というのは仕方ないにしてもに、「投資の知識不足」も大きな要因になっています。
資産運用を投資へ促すには、金融リテラシーの教育が必要な事がわかります。

4.留意点

一つ留意しないといけないのが、この報告書を作成したメンバー。

証券会社・投資会社の人間が何人も入っていて、報告書の結論が投資を推奨する内容になっている。
なんだか金融機関のパンフレットのよう、、、、
したがって、ポジショントークとして割引いて考える必要があります。

資産運用に投資が重要なのは同意します。

長年言われながらも、今だに「貯金から投資へ」という流れが、なぜ定着しないのか?
そこの部分への切込みが不足しています。

この報告書では、金融サービスの問題点として下記を挙げています。

顧客へのサービス提供にあたり、
・ 顧客の状況からみて、過度にリスクの高い商品の販売を行わない等、顧客にとってふさわしいサービスを提供すること
手数料の明確化
・ リスクやリターン等を顧客が自ら判断できるようにするための分かりやすい情報提供
等について徹底していく必要がある。

長年言われてきたことですが、今だに解決されていないことが、金融資産が投資へ向かわない要因の一つになっている。

これまでの金融教育はどこがまずかったのか?
なぜこれまで、「預金から投資」という流れを実現できなかったのか?

要因と対策について、もっと踏み込んだ分析がほしかったところです。

5.まとめ

最初に書きましたが、この報告書は事実をきちんと捉えた良いレポートだと思います。
「今後の年金制度の構築」のための、たたき台として使うことは有用です。

その報告書を巡っては、自民党が撤回を求めたり、麻生財務大臣が「受け取らない」と言ったり、と政争の道具になっているのは残念です。

少子高齢化のもと、「年金制度がこのままでは立ち行かなくなる」のは、変えようのない事実。
事実は認めた上で、「年金制度をこれからどうするか」という議論をぜひ進めてもらいたいです。