理不尽な転勤はオワコンかもしれないが、多くの従業員にとっては実はメリットの方が多い。

転勤はオワコン、転勤を強要する会社は時代遅れ、という声を最近よく聞きます。

その理由は、住む場所さえ自分で決められないのはおかしい、子供が生まれたばかり・産休が終わったばかり・子供が小学校に上がった・配偶者が転勤・家を買ったばかり、などなどなど(以下略)。

 

確かに一個人として、人生設計が根底から崩されるのは理不尽だというのは、とてもよく分かります。また、世の中には理不尽な転勤もあるのかもしれない。

僕も、サラリーマン時代は何度か転勤を経験しましたが、新しい土地・職場に慣れるのに苦労したものです。

 

しかし、世界中の企業にある「転勤」という制度。現実問題としてなくすことは可能なのでしょうか?

 

長年のサラリーマン経験を踏まえて、考えてみました。

 

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転勤はなくせるのか? 

 

最初に結論ですが、正社員の終身雇用幻想があるうちは「転勤」はなくなりません

それどころか、転勤という仕組みは従業員にとって優しい制度なので、逆に存続した方が良いくらい

 

特に、今の日本のように従業員を簡単には解雇出来ない仕組みの中では、転勤は避けられません。転勤したくないというなら、入社の時に拠点が1カ所しかない企業を選ぶしかないでしょう。

 

そう考える主な理由は以下の3つです。

 ・企業の業績は常に変化する

 ・社員の個別事情に対応するため

 ・不正・不祥事を防ぐため

 

 

なぜ、転勤は必要なのか

 

・企業の業績は常に変化する

企業では製品の売上げが増える・減るというのは常に起きている。毎年のように中止になる製品・サービスは発生する。

 

売上げが減って拠点の業績が悪化したときに、その拠点の人員は減らされる。

これは、多くの企業で毎年のように起きているはず。

 

外資系ならすぐに解雇になるが(逆にいえば、解雇があるから海外企業は転勤が少ない)、社員の権利が手厚く保護されている日本では、拠点の業績が悪化した場合、非正規社員の解雇→正社員の転勤、という順番で進んでいく。多くの場合、社員を解雇出来るのはこの手順を踏んだ後に、転勤を拒否したときだけ。

 

社員を簡単に解雇できないことが、転勤がなくならない原因のひとつになっている。

  

・社員の個人的事情に配慮するため

ほぼ全ての社員が個人的な事情を抱えています。 

子供が生まれた、家を買った、上司との折り合いが悪い、パートナーが転勤した、今の仕事にやりがいが持てない。違う部門への転勤を希望する社員もいるだろう。

 

また、時が経つにつれて要望の内容も変化する。

たとえば、子供が小さいときは転勤したくないが、親の介護が必要な年代になったら実家の近くに異動したいとか。

 

こういった事情に対応するために行われる転勤は多く行われる。これは転勤する社員にとっては良いことだが、今度はドミノ倒しのように転勤先の社員が転勤させられる。すると転勤させられた人が戻りたいという希望を出す、といったように次々に転勤の無限ループが始まってしまう。

 

社員の事情に配慮することが、かえって転勤を増やしている側面はある。

 

・不正・不祥事を防ぐため

多くの場合は社内にも公表されませんが、驚くほど多くの不正・不祥事が企業内で起きています。小さいものも含めると、毎年3桁の件数に上る企業も珍しくない。

 

そういった不正・不祥事が、転勤で新しく赴任した人によって発見される事例は多い。

人事異動による転勤が、不正発見とその防止策の一つになっているのです。

 

よく、不正発覚には転勤ではなく2週間程度の長期休暇をとればよい、という専門家もいます。

しかし、内部告発が根付いていない日本ではそれは難しい。すぐに戻ってくると分かっている同僚の不正を告発することは、現実問題として今の日本では不可能に近い。

不正発覚のためには、他の拠点から新たに人を持ってくる必要がある。

 

金融機関に多い急な転勤辞令。これは、不正を働いていた場合に、証拠隠滅をする時間を与えないため。

また、子供が小学生の時は転勤しない等、というルールを作ってしまえば、それを悪用される可能性もある。転勤を固持した社員が、長年不正を働いていた事例はいくらでもある。

 

残念ながら、不正がどこで起きているか分からない現状では、ローテーションを頻繁に繰り返すことが必要です。いつ転勤になるか分からないことが、不正の未然防止策の一つなっているのです。

 

AI化が進んで、人間が介在する業務が減らない限りは、不正防止のための転勤は残るでしょう。

 

【まとめ】 

生活に大きな影響を与えるので、転勤に対する不満は分かります。

しかし、考えようによっては、解雇を減らし、個人の事情を配慮してくれるのですから、社員にとっては優しい制度でもあります。

 

転勤という不便を誰かが我慢することで、従業員全体の利便性は却って上がる。

それが日本における転勤の一面です。

 

理屈から言うと、転勤があると分かっていて入社したのだから、拒否権はないと思う。

 

だからといって、必ずしも転勤の辞令を受けなければならない、とも思わない。

転勤したければすればいいし、嫌なら拒否して退職すればいい。

 

共働きや介護世帯が増えてきた今、転勤のデメリットが高まっていることは確かだし、人間だから時が経てば、気持ちも変われば、状況も変わる。

 他の人にとって良い転勤が、貴方にとっては理不尽な場合もある。

 

自分の人生、やりたいことをやった方がいいに決まっている。 

 

どうせ大企業の転勤はなくならないのだから、「転勤をなくせ」と言うのはあまり生産的ではないと思います。

大事なのは、自分が人生の主導権を握ること。

そのためには会社を辞めても、困らない状態にしておくことが大切。

「転勤いつでもOK」という人はいいのですが、そうでない人は、不本意な転勤で人生を振り回されることにならないよう、準備しておきましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:以下は、転勤が頻繁にある大企業を対象にして書いています。