東京医大不正入試問題:解消されない医師不足。職場環境改善を言うのは簡単。問題は誰がお金を出すか。

東京医大の不正入試問題、話題になってますねえ。

 女性と3浪以上の受験生には減点していたらしい。

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大学側によると、女性は「結婚や出産で長時間勤務出来ない」、3浪以上は「年齢が高いと、医師になったときすぐ独立してしまう」という事情があったみたいです。

 

何で、こんなことをやってしまったの?ということですが、、、

要するに、医師の数が足りないのですよ。 

 

これ、凄く分かります。

数年前、ある病院経営に関連した仕事で「医師不足解消の対策」を検討したことがあります。そのときに医師不足の深刻さを目の当たりにしました。

 

今回の東京医大の例を「男女差別」と取る人が多いようですが、病院側にはそんな意識はなかったと思います。それは、多浪の受験生も同じように減点していることからも分かります。

医療現場が回らないので、止むに止まれずやってしまった、というのが正しいとでしょう。

 

今の医療の現場は大変です。緊急対応が必要な外科・産婦人科などは疲弊しきってました。とにかく、医師に来てほしい。

働いてくれるなら、男でも女でも外国人でもいい、というのが本音。

そんな場所で、男女を差別する余裕なんてないです。 

 

現役の医師への緊急アンケートでも65%が「仕方がない」という回答だったらしい。

 

激務をやってくれる医師を出来るだけ多く確保したい(特に、無理が効きやすい若手男性医師)、という現場からの切迫した要望が、今回の東京医大の不正入試問題の原因だと考えます。

 

・僕が見たある病院の医師不足の例

数年前に関わったのは、地方にある県のトップクラスの病院です。重点高度医療機関に指定されている総合病院でした。

 

そんな大病院でも、何年も前から医師不足は深刻になっていて、いくつかの診療科(産婦人科など)が、休止に追い込まれていたのです。

このままだと、休止に追い込まれる診療科は増えていきそうな勢いでした。

 

しかし、いくら新規に医師を採用しても、すぐに辞めてしまう。その理由は「激務」。

そのため、残った医師の負担がますます増える。すると、また辞めてしまう。その悪循環にはまり込んでいました。

 

・どうすれば、医療現場の負担は減るのか

TVやネット・新聞で「病院の職場環境を改善すべき」と言ってます。

これは正しい。全く正しいです。

しかし、多くのコメントがそこで終わっているのが悲しい。

 

じゃあ、どうすれば職場環境は改善できるのか?

これが、なかなか難しい。

 

遠隔医療やAIが普及したら、将来的には医師の負担が軽減する可能性はあります。

20~30年後には患者の数が減り始めるでしょうから、その頃には少しは余裕が出てくるかもしれない。

 

一方、すぐ出来そうな施策としては、

  ①専任制(患者ごとに担当の医師を決める)を止めてチーム制にする、

  ②医師と看護師の業務区分見直す、

といった方法もあります。

 

しかし、そういった施策を検討したけど、どれも根本的な対策にはなりません。

上のような施策では、医師の激務を救うのは無理でした。

 

結局、疲弊しきった医療現場を救う方法は、「医師の数を増やすこと」

あまりにも単純で拍子抜けだけど、これが唯一の回答でした。

実は、これがとても難しい。

 

なぜ、医師の数が増えない?

医師不足は、随分前から問題になってますが、なかなか解決できてません。

携わった病院では、1.3~1.5倍くらいに増やしたいのだけど、そこには2つの問題があります。

 

ひとつは、病院経営が苦しいため医師の増員が難しいこと。

世間では、病院の経営が苦しいことはもう何十年も言われてますが、その病院の経営も決して楽ではなかった。実質、ほぼ赤字状態でした。

一方、勤務医を雇用しようと思えば、それなりの報酬を用意しないといけない。

経営が苦しい中、高報酬の医師を数十人から百人単位で増やすのは、とても無理。

 

ふたつめは、医師が地方の病院にはなかなか来ないこと。

これはひとつめより、より深刻かもしれません。

とにかく、地方の病院には医師が来てくれません。都会より地方の方が医師不足はより深刻です。

都心より高い報酬、時には倍くらいの報酬を出して、やっと採用できるような状況でした。

 

地方の医大も、地域枠を増やしたりして医師の確保に努めています。

(注:地域枠:卒業した医師が一定期間地元で働くことを条件として入学すること。)

 

しかし、都会の方が、最新の医療情報に触れやすい、最先端の医療現場に携われる、といった理由で、多くの医師が都会の病院を選びます。

 

いまや、地方は医師不足どころか「無医師」状態です。

 

今回の東京医大問題について、医師自身がメディアで話をしていますが、その多くが東京在住の医師です。

そのためか、この地方問題にあまり触れられていません。

 

「チーム制」や「業務区分の見直し」で、職場環境が改善するかのようなコメントをする方もいます。 

医者が集まりやすい都心部は別にして、地方ではそのような対策だけでは医師不足を解消することは難しいのが実態です。

 

医師不足解消には「社会保険・税金を増やす」ことが必要

医療というのは結局のところ、社会保険料・税金等の公的なお金で成り立っています。

ここが、ビジネスから得た売上げで成り立つ企業との大きな違いです

 

医師を増やすには、病院が得る診療報酬から人件費を捻出しなければいけません。

公的なお金(医療費)を増やさないことには、病院は医師を増やせず、医療現場の環境改善は難しい。

 

つまり、医療現場の職場環境を改善するには、年間30兆円の医療費を増やすこと、すなわち、国民が負担増を覚悟することです。 

身もふたもないけど、解決策は詰まるところ「お金」なのです。

医療費を増やすことで初めて、医師の増員が可能になります。

 

日本は国民皆保険制度を採用していて、何かあったときは比較的安価な料金で診察を受けることができます。

個人負担が徹底している海外では、ちょっと入院するだけで数十万から百万単位のお金がかかります。低所得層はなかなか治療を受けられないという、問題も起きています。

 

多くの医師は純粋に、目の前の患者を助けたいと思って、医療に従事しています。

医療現場では、死にそうだったり、病気に悩んでいる患者がたくさんいます。

 

男女差別は絶対ダメです。

しかし、東京医大の問題で「男女差別するな」と言うだけでは、医療現場がますます疲弊し、苦しむ患者を増やすだけです。

 疲弊する医療現場がある限り、見えない形での差別は続いていくでしょう。

 

只でさえ、これからも膨張していく医療費。

さらなる負担増を受け入れるか、否か。その覚悟を決める必要があると思うよ。