【書評】レディ・キラー/エド・マクベイン:巨匠の名人芸が随所に

少年時代にはまった警察小説の金字塔、87分署シリーズ。

少ない小遣いを出し合って、友達と早川ミステリ文庫を交互に買っていった思い出があります。

50作以上出ている87分署シリーズの中でも初期の頃の作品ですが、巨匠エドマクベインの熟練技が冴え渡っております。

特に、僕が好きな、短いセリフの会話がテンポよく進むところなどは、既に名人芸の域に達しています。

 

朝8時、「今夜8時にレディを殺す」という脅迫状が87分署に届くところから、物語が始まる。800万の人口を抱える大都市アイソラで、どうやって「レディ」と「殺人者」を見つけ出し、犯行を未然に防ぐか。87分署の刑事達の12時間の追跡劇を描く。

 

読了して思ったは、この作品を書いた1958年当時は、まだ作家とし確たる地位を確立してなかったんだろううな、ということ。「1通の脅迫状だけから犯人を追い詰める」という着想は良いのでしょうか、これだけで物語を展開するのはかなり無理があった。

急に人気の出た駆け出し作家のマクベインが、出版社から急かされて無理矢理書いた作品という感じです。とにかく、突っ込みどころは満載。

 

ミステリなのに謎解きの要素がほとんどない、前半の1/4ぐらいは全体のストーリーに無関係、ホース刑事が犯人らしき人物を特定するのがあまりにも安易で説得性に欠ける、などなど。 

 

しかし、読んでいる最中はこのよう粗さが全く気にならないほど、面白い。

さすがです。

秀逸な情景描写、小気味よい会話、87分署刑事達の人間くささ、ユーモアたっぷりの心理描写、が至る所にちりばめられていて、一気に読み進んでしまいます。これぞ、エドマクベイン!という内容で、7作目にして既に名人芸の域に達しています。

 

作家やミュージシャンの中には、最初の3作目ぐらいは面白いがその後は停滞してやがて尻すぼみ、という例が多々ありますが、エドマクベインは多作ながらも面白さを保っている、数少ない例ではないでしょうか。

 

僕がファンだと言うこともあるけど、上手な人が書けばどんな話でも面白い、という見本のような小説。

 

(評)3(面白かった)