【書評】部活を生徒の手に取り戻せ。善意の大人が部活を危なくしている。:部活が危ない/島沢優子

日本人が大好きな部活動。

僕も、部活動に明け暮れた学生時代を送ってきました。学校は部活をするために行っていたようなものでした。

今となっては、良い思い出です。

 

しかしその部活で、毎年死亡事故が起きるまでに加熱している。

部活動は多くの問題を抱えており、その運営は岐路に立たされているように思える。

 

部活動で傷つけられている生徒を救うにはどうすれば良いか。

本書では、部活で苦しんでいる様々な事例を紹介し、解決の糸口を探ります。

 

筆者は、中高生の部活動を追い続けているフリージャーナリスト。

自身も中学時代はバスケットボールに青春を賭け、部活動には良い思い出を持っています。根本には、部活に対する愛情が感じられます。

 

そういった筆者が「部活は本来だれのものであるべきか?」という根源的な問いをなげかけます。 

・善意の行動で生徒を追い詰める大人達

本書では、指導者・保護者・学校など、部活動に関わる人たちへの取材を通じて、生徒が追い詰められていく事例を紹介している。

 部活動という閉鎖空間で生徒を傷つけていく事例の数々には、恐ろしさを覚えます。 

  • 「追い詰めることで伸びる生徒がいる」として、生徒を追い込む指導者。
  • 「世の中に出れば理不尽な事もある」と、暴力、暴言を許容する親。
  • 人間教育と称して、経営や非行防止の施策として、部活を利用する学校。
  • 「みんなが我慢しているのに、自分だけ抜けれない」と同調圧力にさらされる生徒。  

悲しくなるのは、そういった行動がすべて良かれと思って行われていること。 

悪気はないものの、古い慣習や経験則から抜け出せない大人達。

また、経験則としてある程度の納得性があるため、その全てを否定することは難しい。

 

しかし、時が経つにつれ、その行動が生徒を追い詰めてるまでにエスカレートしていく。 

指導者・保護者・学校、の3者から追い詰められ、逃げ場をなくした生徒の状況は絶望的なように映る。

 

・行き過ぎた勝利主義

この根底には、我々社会の行き過ぎた勝利至上主義がある。

 

勝ちさえすれば、どんな指導をしていても「名将」と呼ばれ、周りから尊敬され奉られていく。

勝利のためなら、「長時間練習、理不尽なトレーニング、指導者の横暴」が許される社会が、いつの間にか出来上がっていた。

学生スポーツの本質を外れ、勝利の裏側で犠牲になっているものにも目をつぶってきた。

 

勝つためには厳しい練習が必要という根深い風潮に加え、勝利で全てが正当化されていく。それがだんだんエスカレートして、歪んだ価値観が作られたように思える。

 

実は戦後直後は、過度な部活動は禁止されていた。

中学校の全国大会は禁止、高校生の全国大会も制限されていた。

それがいつの間にか、中学生の全国大会が常態化し、高校生の全国大会も3回、4回(含む国体)と増えていった。

大会が増え、絶え間なく勝つことを要求することが、常に生徒を追い込んでいる。 

 

勝つことより大切な事があることに、そろそろ社会が気づく必要があるのではないか。 

・生徒の手に部活動を取り戻すことが必要 

解決策としては「生徒の自主性」が必要だと、筆者は訴える。

 

ともすれば、強制的にやらせないと強くならない、という風潮がある部活動。

 

本書では、選手の自主性を引き出すことで効果が上がった例として、水泳の鈴木大地スポーツ庁長官、青山学院大学駅伝部の事例が紹介されています。

そこでは、選手自身が考えて活動することで、能力がより引き出されていく様子が見られる。

 

また、ラグビー前日本代表監督のエディ・ジョーンズ氏は、日本の部活の「過度な勝利主義、長すぎる練習時間、指導者に従順な生徒」に警鐘を鳴らしています。

今後は、国内だけで考えるのでなく、広く海外の事例を取り入れることも必要だ。

 

残念なことに、前例踏襲主義が蔓延している学校は、先生個人が改革の声を上げたくても上げれないという。

 

部活を変えるには、保護者動くことが必要だと、筆者は訴える。

生徒の親が、問題意識を持ち、考え方を変え、行動を起こさないと、これからも部活は変わらない。

保護者が変われるか? それを本書は問うているように思える。

 

*最後に

いくつもの事例が出てくる本書ですが、統計データがほとんど無いことが気がかりな点です。

そのため、最後まで問題の全体像が見えてきませんでした。

意地悪な見方をすると、筆者が遭遇した事例だけから結論を導き出したように見えます。そのため、解決策が妥当なものかどうか、釈然としなかったことは事実。

 

それを差し引いても、筆者の熱意が本書の端々から感じられ、部活に関わる方、特に保護者にはオススメしたい本です。

 

 

部活があぶない (講談社現代新書)

部活があぶない (講談社現代新書)