人類最先端の叡智に触れる喜び。ワクワクする宇宙と重力波の世界。【書評】重力波とは何か(著者:川村静児)

「宇宙」とか「重力」という言葉を聞くと、拒否反応を起こす人も多いかと思います。

僕もそうでした。
数式は難しいし、宇宙の話かと思ったら素粒子が出てくるし、何億光年彼方の話とかスケールが大きすぎるし。
とてもついていけません。
理系の学科を卒業したのですが、とても太刀打ちできないと「触らぬ神に祟りなし」で過ごしてきました。

そんな理系落ちこぼれ男が暇つぶしに読んだ一冊の本.。
宇宙の「奥深さ・面白さ」にハマってしまいました。

手に取ったのは「重力波とは何か」(幻冬舎新書)。

著者は、重力波の研究に携わる大学教授。

重力波研究の第一線に立つ著者が、初心者にもわかりやすい平易な文章で、宇宙研究の最前線を紹介してくれます。
宇宙の成り立ちの不思議さ、それを解明しようとする人たちの凄さ、重力波を捉えるための大掛かりな仕掛け。
これぞ、人類の叡智の最前線という感じです。

また、自らを「ノイズハンター」と称して重力波の研究に打ち込む著者の姿は、頼もしくかつユーモラス。

読み物としての面白さと知的喜びに溢れた本です。

(長文です)

重力波とは何か?

まずは、「重力波」とは何か?です。 

これが、摩訶不思議で奇怪なものなのです。
 
重力波とは「重力場が空間を波のように周囲に伝わっていくこと」
海の波のように、空間を伝わっていくのです。

一言で言うとこういうことですが、これだけだとあまりにも不親切。
以下、本書を読んで理解した範囲で説明します。

まず引っ掛かるのが「重力場」という言葉。

重力場:質量を持つ物体があると、その周りの空間が歪む。この空間のことを「重力場」と言う。

家のソファに僕が座ったとします。
すると、(目には見えませんが)その周囲の空間が歪むそうです。

イメージとしては、柔らかいクッションにボールが落ちたところを想像すると良いと思います。
ボールを落とすと、その部分が沈みますよね。その沈んだ方に向かって周りの物が転がっていきますね。

この「クッションの沈み」が「重力場の歪み」。

そして、この重力場の歪み」が重力を生み出している。

上で、「クッションの沈んだ方向に向かって周りのものが転がっていく」と書きましたが、これが重力のイメージです。
空間がクッションのように歪み、その歪みに向かって周囲の物体が引っ張られる。

どうやら「重力」というのはそういうものらしいのです。

そして、物体が動くたびに周囲の重力場も動き、それが波のように周囲に広がっていく。

このように、「重力場が周囲に拡がっていく現象のこと」を「重力波と言います。

これは、全ての質量を持つ物体に当てはまります。

僕も、あなたも、目の前のコップも。
重さがあるものであればどんなものでもです。
外に出れば、車が走り、人が歩き、電車が出発・停車しているけど、この動きの全てから重力波が出ているんですよね。
普段は全く気づかないけど、こういうことのようです。

重力波の性質

この重力波。とても面白い性質を持っています。
専門的には色々あるのでしょうが、僕がこの本を読んで分かったことをまとめると、下記の3つになります。

 ・光速で拡がる 
 ・なんでも通り抜ける
 ・とてつもなく微弱

最初は「光速で広がる」こと。

途轍もなくはやいスピードで拡がっていきます。
相対性理論によると、スピードの上限値は光速なので、宇宙のスピード王と言っていいでしょう。
一般に「光」とか「電磁波」と呼ばれるものと、同じスピードです。

2つめは「何でも通り抜けてしまう」こと。

同じ波である電磁波は電気や磁気を持っているため、他の物質と相互作用を起こしやい性質を持っています。
そのため、空間にある色々な物資にぶつかって、通り抜けられないことがよくあります。
ラジオや携帯の電波が建物の影響で、届かなくなるのはこのためです。

しかし、重力波は何かにぶつかるということがありません
電荷とか磁気という性質は帯びていない。無色透明で伝わる波なので、どこにもぶつかりません。
どんなものにも邪魔されずに、全ての空間を通り抜けられるのです。


最後は「とても微弱である」こと。

強さを表すと、振動の大きさは10の23乗分の1メートルだそうです。

これがどれくらい小さいか?
なんと、原子の直径の10兆分の1。

うーん「10兆分の1」ですか。とてつもなく小さいことはわかりますが、、、
正直、どれくらい小さいかをイメージするのは難しい、、、、。
うまく表現する技術を持っていませんが、とんでもなく弱いことだけは確か。

これだけ小さいので、重力波がどれだけ空間に満ち溢れていようが、通常の生活にはなんの影響も出ない。

あまりにも微弱だから、その存在を捕まえるのはとても難しい
これが、世界中の科学者を悩ませている元凶です。

以上をまとめると、
光速で移動し、何ものにも邪魔されない。
このため、遠い遠い昔の数十億年前の宇宙のどこかで起きた出来事を、観測することができます。

これが、重力波の測定が科学上の大発見だと言われる所以。

問題は、とても微弱なために、なかなか捉えることができないこと。
そのために、世界中の研究者たちが、測定に四苦八苦しているのです。

宇宙の仕組みを解明するのにとても有益な「重力波」なのですが、観測するのがとても困難。
まさに「帯に短し、襷に長し」ですな。

重力波の検出方法がとんでもなくスケールがでかい

ものすごく微弱なため、捕まえようと思ってもなかなか検出できない「重力波」。
では、どうやっているのか?

ものすごく簡略化して言うと、下記2つのことをやっています。

 ・めちゃくちゃ高感度かつ広帯域の波をキャッチする受信機を作る
 ・3つ以上の受信機を組み合わせて、飛んできた方向を探る

・高感度かつ広帯域な受信機作る方法
詳細は省きますが、高感度の受信機を作るには、その直径が大きい方が良いのです。
その大きさは、3キロとか4キロとか、とんでもない長さ。
受信機の先なんか、見えないですね。

ノイズは大敵
また、重力波はものすごく微弱なので、ちょっとしたノイズがあっても検出できなくなる。
ノイズ軽減のために、地下に装置を作ったり、冷却したり、と様々な工夫を凝らしているようです。

重力波が飛んでくる方向を探る
重力波は宇宙のあらゆる方向から飛んできます。
そのため、ただ検出するだけでは、それがどこから飛んできたのか分かりません。

飛んできた方向を把握するためにはどうするか?

そのためには、3つ以上の測定点が必要となります。
測定の時間差から計算して、飛んできた方向を算出するそうです。

そして、その3地点は出来るだけ離れていることが望ましい。

しかも、3地点というのが「銀座と新宿と渋谷」というレベルではありません。

地球規模での3地点なのです。
例えば、「日本と南米と欧州」とか。
全地球的に離れている必要があります。

そのぐらい離れていないと、宇宙から光速で飛んでくる波の時間差は検出できないようです。

スケールがでか過ぎますね。

重力波を測定すると何がわかるのか?

では、重力波を測定すると、何がわかるのか?
それが分からないと僕みたいな素人には、ことの重大性がピンときません。

簡単にいうと、「宇宙の成り立ちとその様子」です。
これだけだと「ふーん」という事にもなりかねないので、以下で説明します。

現代の理論では、宇宙は今から約137億年前に誕生した、ということになっています。

実は、その始まり方はよく分かっていません。
多くの人は、「ビッグバン」によって宇宙が始まったと思っているようですが、実は違うのです。

ビッグバンの前には、いくつかの現象が起きているようなのです。

説明は省略しますが、それは「量子のゆらぎ」や「インフレーション」という現象。

ビッグバン前に起きたこのような現象は、電磁波では捉えられないため、その中身がよく分かっていません。

この時の様子を知る唯一の手がかりが、重力波なのです。
これは、先にも述べたように、「重力波はなんでも通り抜ける」という性質があるため。

137億年前の遠い昔から飛んできた重力波を捕まえることで、宇宙の成り立ちを解明しようとしています。

次に、「今の宇宙の様子」について。

今の宇宙の様子は、全体の4%しか分かっていません
これは、銀河系全体にある物質の全重量から計算すると、今の宇宙の状態を4%しか説明できないから。

じゃあ、残りの96%は何か、ということですが、これが「ダークマター暗黒物質)」とか「ダークエネルギー」と呼ばれるものです。

これ、もっともらしい名称になってますが、要するに「何かよく分からないものがある」、ということです。
よく聞くブラックホールもこの「ダークマター暗黒物質)」の1種。

このようなよく分からない物質からも重力波が出ている、と考えられており、それを検出する事によって、残り96%の解明が進むと期待されています。


人類の叡智の最前線に触れることは、素晴らしい映画のような感動がある。

科学が発達した現代でも、宇宙には分からないことがまだいっぱいあります。

しかし、人間はそれを知りたいという欲望を持っている。
宇宙を知ることは、人間や物質の本質に迫ることでもあり、多くの科学者がその探求にしのぎを削っています。

世界トップクラスの頭脳が長い年月かけて研究しても、いまだにたった4%しか分からない宇宙。

 
その先には、まだまだ広大な知らない世界が広がっていますが、それは人類の叡智を集結しないと分からない世界でもあります。

世界が一つ一つ解明されていく様を見ることは、優れた映画や小説を見るよう。
美しさや、人類の叡智の素晴らしさに、ときには感動すら覚えます。

知的興奮の極地とも言える「宇宙の解明」。
その一端に触れられることは、ワクワクする冒険にも似た興奮を覚えます。