【書評】ルポ タックスヘイブン/朝日新聞ICIJ取材班:タックスヘイブンの実態に迫ろうとするルポ

タックスヘイブン
名前だけは耳にするけど、多くの人はその実態についてよく分かっていないのではないでしょうか。

僕もその一人です。

・大金持ち・大企業の節税(脱税?)に利用
・スイスの銀行ような超秘密主義
・そのため、犯罪組織のマネーロンダリングに使われている

何やら怪しげで、近づかないほうがいい場所、というイメージを持っていました。

パナマ文書」流出の1年後、引き続きタックスヘイブンに関する大量のデータが流出した「パラダイス文書」。
これにより、タックスヘイブンの中身が少しずつ明らかになってきています。

本書は、ジャーナリストの国際連合機関である「ICIJ」に参加した、朝日新聞の取材チームによるルポルタージュです。

1.タックスヘイブンとは?

タックスヘイブン(Tax Haven)とは、直訳すれば「税の避難所」。一般的には「租税回避地」と言われる。
税率が極端に低い(あるいはゼロ)の国・地域を指しています。

その税率の低さに目をつけた、主に大企業・富裕層が少しでも税金を減らそうと、利用しています。
手法としては、タックスヘイブンに事業実体のない法人を設立することが多い。

注意すべきは、国や地域が税率をどう決めようが自由なので、税率が低いこと自体には何ら問題はない。

問題なのは、タックスヘイブンの多くは「秘密主義」を売り物にしており、犯罪・脱税のリスクがあること
秘密主義に国家主権の壁が重なり、資金の流れを見えなくしていることが、多くの疑惑を生んでいる。

具体的な場所としては、バミューダ諸島・バージン諸島、ケイマン諸島マン島、香港、ジャージー島モーリシャス、セーシャル等、多くの名前が上がっている。

2.利用者:大企業や富裕層

さきほども書いたように利用しているのは、大企業・政治家・有名人(F1ドライバー、歌手、サッカー選手)・富裕層といった、巨額の富を保有している人たち。
この人達は、毎年何十億・何百億という税金を支払っており、その何割かを減らすだけで膨大な資産が懐に入ることになる。

本書では、ロス商務長官、エリザベス英女王、鳩山元首相、シュレーダー元ドイツ首相や、F1王者のハミルトンといった有名人。アップル、グーグル、アマゾンといった世界的IT企業、の名前が出てくる。

しかし、単純に利益をタックスヘイブンに現金を移しても、自国の税務当局に補足されてしまう。

そこで法律の専門家が登場する。

タックスヘイブンには法律事務所がいくつもあり、彼らのアドバイスによって、様々な税務処理が行われている。

本書で紹介されているのは、
・事業実態のないペーパーカンパニーを設立する。
・自家用ジェットを購入時、2時間だけタックスヘイブンに寄り、20%を節税

といった手法。

3.タックスヘイブンの問題は?

では、タックスヘイブンが違法でないのなら、何が問題なのか。


最初に挙げられるのは、貧富の格差を拡大すること。 

富裕層が税金を収めないことによって生じる税収不足は、誰かが補填しなければならない。
その負担は、消費税や所得税の増額、公共料金の上昇という形で低所得層にのしかかってくる。
このため、貧困層の負担が増え、富裕層の負担は減る」という状況が起きている。

本書では、タックスヘイブンにより地域の土地・物価が上がり、貧困層の生活がますます苦しくなってい事例が紹介されている。


2つ目は、犯罪の温床になっていること

タックスヘイブンも一つの国家・地域であり、そこには主権がある。
古くから、スイス、ルクセンブルグといった金融国家にあるように、富裕層は秘匿性の高い金融機関を好む。
国家主権と金融機関の秘密主義の壁に阻まれ、一旦持ち出された資金の流れを追うことは不可能に近い。

そこに目をつけた犯罪組織が、資金洗浄マネーロンダリング)に利用しているとの噂は絶えない。

今回のICIJの取材中にも、タックスヘイブンを追う記者の車が爆破されるという事件があり、背後に犯罪組織がいることが分かっている。

 
そして、一番の問題はやはり、多くが違法ではなく適法であること。
適法であるために資金の流れを解明できたとしても、それを阻止する法律がない。

このため、「富裕層の節税→貧困層の税負担増」という流れが止まらない。

後ろめたいと思っているのか、ほとんどの富裕層はタックスヘイブンを利用していることに口を閉ざしている。
問題ないのなら、堂々と公表すればと思うけど、、、。

4.今後の対策:各国の思惑が絡み進まない対策

実は、対策としてやるべきことは、はっきりしています。
国際的に協調したルール・規制を作ることです。

タックヘイブンは要するに、「国・地域による税率の違いを利用した節税」。
なので、理想は国・地域による税率の違いを減らすこと、そして、資金の流れを透明化することです。

残念ながら本書では、国際法や金融機関の秘密主義の壁に阻まれ、実態を解明できたケースは少ない。

国単位を基本とした法律では、タックスヘイブンのような国境をまたいだ資金の流れを追うことは難しい。

各国の思惑が絡み、特にオフショアビジネスが重要な産業となっている英国が及び腰でもあり、統一したルールづくりがなかなか進みません。

このままタックスヘイブンを放置しては、貧富の差・犯罪リスクが拡大するだけに、悩ましいところです。